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セイシンカイ

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帰ってきたハナコ






 今月こういう事がありました。
 栃木から「読売の記事をみた。是非診察してほしい」という切羽つまった親の電話を妻が受けて、強引に夕方の時間外に入れてしまう。予約はすでに来年2月ころまで一杯なのでこうするしかないのだが、「あなたカリカリしないで。患者さんにあたってはダメヨ」と尻押しされ、66才の前期高齢者の僕はやむなく診察する事になった次第です。
 当日両親と姉2人が本人につきそって何と午後1時より待合室で待っている。 25才の当の女性は栃木某医大精神科に入院中だが、幸いなことに自分の世界に入って、手芸品を持って笑顔でさわりながら、一人言を言っていて待つことは全く苦にならない様子。予約が一杯で、気が気でなかったが本人の診察は夜6時に始まった。本年5月、知的障害のある彼女が民間企業に就職して、頑張った挙句、不眠、多弁、まとまらない行動と多動の、躁状態になった。御存知のように知的障害者はストレスで健常者よりはるかに容易に躁やうつの気分障害になったり、心因性の一過性精神障害を起こし易いが、適切な診療と援助により容易に回復するものです。
 ところが家族が連れて行った栃木の某医大精神科は、「統合失調症」として即座に入院診療を行い、薬物療法を種々試みて、副作用強く出て失敗。(知的障害者は、脳の器質的基盤により、副作用が非常に出易いのは常識)それで電気ショックを何回か行った旨。その挙句が自分の世界に全く入ってしまい、対話不能、食事も入浴も全介助の状態になってしまったという。今は薬なしで入院しているという。
 家族には「統合失調症ではない、仕事のストレスで反応性の躁状態を来したもの。入院して誤った診療のため、本人は恐怖不安より自分の世界に入って自分を守っている。直ちに退院させなさい」。紹介状を持たせ、家族が住んでいる栃木から近くの埼玉県E市の精神科クリニックS医師宛
の紹介状を書く。4日後母親が1人で来て、退院させた。 S医師がみてくれる事になったと。翌週にS医師からの返事があって、「仕事のストレスによる心因反応性のもの」と私と同じ見立てでこの子は救われたと安心した次第です。
 近年大学病院や日赤等基幹病院での「統合失調症」の誤診が急増しています。この1年でも私の所だけでも数十件を越す誤診者が関東一円から集まってきています。「統合失調症の誤診」は社会問題となっていると思います。
 その原因の半分は、臨床経験の確かな指導医が大学病院からいなくなったという、医師教育体制の崩壊。東海大学、昭和大学と私大病院のみならず、済生会系や日赤病院等公立総合病院で精神科病棟をなくす所がでてきました。総合病院精神科病床は10年間で5000床減ったと言われています。(2012年)あと半分はアメリカ合衆国の「DSM-IVTR」という診断基準の弊害です。
①妄想②幻覚③まとまりのない会話④及び行動⑤陰性症状が2つ以上あって1ヶ月持続しているという安易な診断基準になっています。
 妄想一つをとっても気分障害にみられる貧困・罪業妄想・誇大妄想や、解離性障害の夢か現か幻の意識変容状態の幻覚妄想状態、強迫性障害の強迫妄想、子供やアスベルガーの人にみられ易いイメージの視覚化、聴覚化、体性幻覚化、健常者にみられる「空耳」及び「錯聴」や、過去や将来への幻想化等沢山あります.
 幻覚も健常者にみられる入眠時幻覚や覚醒時幻覚や錯視もあります。これらの鑑別が全くされていない。それをしないから、統合失調症として薬物療法を行うと、絶対治らないばかりか、難治化させてしまいます。
 ごく最近も神奈川K医大病院より転院してきた青年がいます。「統合失調症」の診断で大量投薬と頻回の電気ショックを受けていました。
 妄想の中身は強迫妄想と睡眠時無呼吸症候群による早期覚醒時の幻覚でした。
 私の診断は①強迫性障害 ②高機能自閉症 ③睡眠時無呼吸症候群でその青年はC-PAPを使って幻覚も著明に減り、向精神病薬も大部分中止して10年遅れて高校に通学できるまでになりました。
 こういった例をみると「精神科医」ではなく、「セイシンカイ=精神壊」が日本に蔓延しています。我が医師会のK理事(内科)が言ってましたが「セイシンカには行くな。家でジッとしてろ」が正解と思います。
参考資料
 ①読売新聞 医療ルネサンス シリーズ こころ 「これ、統合失調症?」
  2008年10月下旬より計9回連載
 ②精神科セカンドオピニオン 正しい診断と処方を求めて(精神科セカンドオピニオン) 誤診・誤処方を受けた患者とその家族たち、笠陽一郎 共著 シーニュ 2008年
御一読をおすすめします。

セイシンカイ 三吉譲
藤沢市医師会報 第402号 2009年1月に加筆訂正した



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