ケーススタディ


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私の提言ー長期入院者データを踏まえてー






ニセイカウシュッペ山 1879.1メートル 2013年8月14日
ニセイ(絶壁の)カ(上に)ウシ(いる)ペ(者) アイヌ語
(山と渓谷社のヤマケイオンラインのニセイカウシュッペ山の紹介文より。)
(http://www.yamakei-online.com/yamanavi/yama.php?yama_id=31)



ニセイカウシュッペ山の登山道近くのお花畑

索引




2012年(H24年)9月精神保健指定医研修会に参加して
 精神保健指定医は都道府県が措置入院(国家権力による強制入院)を行うにあたり、診察をして強制入院を行うのに必要な公的資格であり、私はこの資格を1987年、上秦野病院時代に取得した。

 5年に1回更新のための研修会出席が義務付けられている。
 私は開業医であり、強制入院を行う立場ではないが、不当な強制入院に異議申し立てをしたり、障害年金書類を作るのに必要なので、この資格を保持している。
 さて、私は2012年5回目の資格更新の研修会に参加して重要なデータを得たので、そのデータを皆様に開示したい。
(平成24年度精神保健指定医研修会テキスト-日本総合病院精神医学会より)

Q1:疑問は1968年WHOから改善勧告(クラーク勧告)をうけた、世界中で日本のみの長期大量入院が改善されたのか?
Q2:改善されてないとすれば、その原因は何故か?
 この資料にはその回答が示されている。

A1.長期大量入院が改善されていない
図1(上記テキストP8)を見られたい。
 日本は人口千人当りの精神科病床数が28床位で世界トップであり、高止まりのままである。
イタリアは0.2床で日本の1/100である。


図1 病床数(諸外国との比較)

図2(P8)を見られたい。
H20年病床数は34.9万床で、入院患者は31.5万人で、わずかに減少したのみである。

図2 精神病床数および入院患者数の変化

図3(P9)を見られたい。
平均在院日数はH1年の495日に比べて313日と減っている。
諸外国の10倍以上である。イタリアに比すと100倍である。


図3 精神病床の平均在院日数の推移

図4(P201)を見られたい。
10年毎に入院者の年令分布がどう動いているか。
 S52年(1977年)の入院患者(35~44才)がS62年(1987年)には45~54才、H8年(1996年)には55~64才、H17年(2008年)には65~74才となり、徐々に減りつつもほぼ平行移動していることがわかる。
 すなわち、いったん長期入院すると、死ぬまで精神科病院にいるのである。


図4 精神病床入院患者の年齢分布

図5(P210)をみられたい。
 H18年(2006年)年間新規入院39万人で入院は活発に行なわれ、3ヶ月未満で23万人退院し、12ヶ月になると34万人退院している。
 すなわち12ヶ月以上の入院者5万人は長期入院となり、長期入院者22万のうち、退院は5万人。この5万人のうち精神科特別養護ホーム入所者の3万人である。
 残り2万人はどうなのか。
 これはいわゆるカンバコ退院(死亡退院)が大部分である。75才以上となると自力での退院は難しく、どの精神科病院でも、併設されている特別養護ホームに入所していくわけである。(年間3万人)
 かくて、新規入院患者で精神科病院はうるおい、75才以上の特別養護ホームでも、精神科病院は潤うのである。


図5 精神病床における患者の動態
 ただし、5万人の毎年産出される長期入院者は、自己責任でそうなるのだろうか?
 私は精神科病院での10年以上にわたる勤務でも、 三吉クリニックでの26年目になるクリニック勤務でも、 そう思えない。
 まず、精神科病院では主治医が頻繁に交代する。
 誰かにすがって希望を持とうにも持てないのである。「去るものは日々にうとし(時のたつにつれて次第に忘れられるー西尾実、岩淵悦太郎、水谷静夫編 岩波国語辞典 第6版 岩波書店よりー」。
 精神科病院入院が長期化すると、友人も兄弟も訪れることまれになり、唯一の頼れる存在-父母も高齢化し、最後は死に親の想いも終わってしまう。
 すなわち、全て1人になるのである。
 あと、多剤大量薬物療法で終日ボーッとなって、夢か現か幻かで過ごしていくのである。慢性に夢をみつつ、あと時折爆発するだけで保護室に収容され、集中して電気ショック療法を受けさせられつつ人生を過ごすのである。そういう激しい人もいる。しかし、かなりの人達はそういう時期も終わって、閉じられた環境の中で自然に治癒していくのである。時熟といい、また、晩期寛解と言われるが、社会と切り離されても自然治癒する能力を人間は持っていると私は考えている。私が陽和病院男子慢性閉鎖病棟で診たかなりの人達は既に自然治癒していた。病院にいる必要はない人達であった。しかし、忘れられた人達で、親は年老い、あるいは死に、兄弟姉妹は余裕なく、社会の受け皿はないのである。本人達はあきらめて、精神科病棟で過ごしているのである。穏やかな慎ましい人達であった。(小林美代子 「髪の花」 講談社 1971年ー社会に、家族に捨てられ、忘れられた人達の悲しい話である。Amazonで入手できるので、ぜひ読まれたいー)
 そういう中で、20歳代に収容されると50年間の精神科病院生活を送って、あとは70年代に入って特別養護老人ホームが待っている。
 発病より墓場までの生活が用意されている。
 私は、統合失調症の破瓜型はもともと人類にはない、と確信するに至った。
 破瓜型(解体型とも言う)の特徴は、不安、恐怖、怒り、 焦燥、無気力等の、情動脳の疲弊し、かつ、持続的な興奮状態とともに、前頭葉を中心とした認知、実行機能の解体、縮小、退行がある。
 周囲に、社会に、世界に、飲み込まれるという恐怖、不安の中で、夢か現か幻の精神状態となり、幼少期から発病前期をさまよいつつ、食事、排泄、清潔維持といった日常生活機能も喪失し、自分で最低限の生活もできなくなるのである。
 安全で、本人が安心して、生活できる場所の提供とともに、薬物療法に加えて、本人のプライド、主体性を尊重した関わり、リハビリテーションが回復には必須である。
 劣悪な環境で収容するだけの日本の精神科病院と同じく、ただ精神科病院を解体するだけで、60万人の入院患者を社会に放り出し、ならず者の食い物にしてきたのは、ケネディ大統領時代のアメリカ合衆国であった。
 幾多の経緯の果てに、幻想でしか自分を守れない人間の極限の状態であると考えるに至った。
 近世以前の社会の受け入れる所では、破瓜型は存在しないのである。
 しかし、そういう人達もサポートして受け入れる人がいると、自然治癒していく、と私は信じている。
 しかし、現実は厳しく、 精神科医が1人で奮闘してもどうしようもできない現実がある。
 精神科医が治そうとしても不可能で、彼ら彼女らに寄り添うしかないのである。

A2.精神科病床数の高止まりを支えているのは精神科特例

図5に示されたように、入院1年以上の退院困難の長期入院者が毎年5万人産出され、その人達が75歳まで精神科病院の中で生活し、その後は、毎年3万人が付属特別養護老人ホームに入所し、残り2万人は死亡退院となるのである。
 かくて30万床は維持され、再生産されていく。

 ではなぜそうなるのか。
1.法律で支えているのは精神科特例(S26年)の法律である。
 この法律は医師・看護者数共、一般科の1/3でよく、入院者1人あたりの病床面積も設備も1/3でよいとするものである。
 この法の精神は入院だけでなく、精神科外来も1/3でいいことになっている。
 かくて保険では多種大量投薬がまかりとおるシステムになっている。
 複数回の精神科面接(1回60分)やトラウマに有効なEMDR(1回90分)は、自費にしない限り、施行不能である。
2. かくて外来では、治療効果が上らず、外来ですなわち市民生活の中で治療困難で、安易に入院となり、入院しても薬物療法以外の治療は貧困で、薬物治療が中心となり易く、毎年5万人が長期入院化するのである。
3. 前述したように2004年(H16年)度のデータであるが、 精神科病院入院費1兆3699億円(年)に比べ、 精神科外来費用4582億円、福祉施設331億円、ホームヘルパー等の在宅福祉58億円にすぎない。
 すなわち愛着障害等があって内的リソースの成熟が乏しいもの、発達障害等があって適応障害になり易い人、家族や友人、学級、職場等の外的リソースが乏しい人は、退院が困難になり易いのみか、退院してもすぐ再発し、再入院になり易く、長期入院者となり易い。日本では、長期入院すると墓場まで、精神科病院や付属特別養護施設入所が保証されているのである。
 そういう人達が毎年5万人産出されている。
 こういうシステムは国家が作り出し、維持しているといってよい。

 精神科特例により精神科病院は組織施設及び人員が他科にくらべ1/3と安くてすみ、儲かる仕組みとなっており、多種大量薬づけで製薬資本も儲かるシステムとなっている。
 すなわち金が動いており、金が動くと原子力発電所のように、いったん作ってしまうと、資本の意志で自動運動して再生をくりかえしていくのである。
 毎年生みだされていく長期入院者の5万人を作り出さないためにはどうしたらよいか。

それを次に検討しよう。

(私の提案)
 まず、2004年度精神科入院費用1兆3699億円を同年の精神科入院患者32万7000人で割ると1人あたり年間420万円となる。月にすると35万円となる。
これには本人の小づかいや日用雑貨費は含まれないので、それを月5万円とすると、月40万となる。
 在宅福祉で行うとどうなるか。家賃生活費15万+ヘルパーやデイケア等の在宅福祉15万円、合計毎月30万円で十分ケアの行き届いた生活ができるであろう。
更には自らヘルパーとなったり、(三吉クリニックの例)生産労働につくことも可能となる。
40万-30万=10万円が単科精神科病院入院者1人あたりの毎月の無駄使いで、 年間になおすと32万7000人X10万円X12月=392億円の無駄使いとなる。
これをそっくり総合病院の精神科病棟費に振り分ければよい。
何故総合病院精神科ベッドが必要かというと
1.総合病院は市中にあり、市民が利用し易い地理・交通条件がある。
2.他科との協同治療が円滑にできる。入院になる人は高齢化しており、身体合併症もよく治療できる。
3.他科と同じ環境で治療できることになり、精神障害に対する
恐怖や偏見をへらすことができる。

 これに比べ
①単科精神科病院は郊外にあり、利用しにくい。
②他科との共同しての合併症治療が困難である。
③精神障害者になると隔離収容されるという市民の恐怖・偏見を温存し再生産しやすい。
④かくて精神障害そのものの治療が困難となる。
 このような過程と共に成立した単科精神科病院は致命的欠陥を必然としてもつため、総合病院精神科がベストである。
入院者間の無用なトラブルを避けるために望ましい、全室個室でプライバシーを保ちつつ、1病棟10床~20床の小規模病棟か、虎の門病院精神科のように他科との共存病棟を総合病院内に作ることができる。

(参考資料 栗原雅直「壁のない病室」中公文庫。
栗原医師は、元虎の門病院精神科医長で、生涯臨床に撤した。精神科医の気概にあふれた本である。患者、家族のみならず、次代を担う若い精神科医に1読をお勧めしたい。)

年間約400億円使えるとして、1病棟毎年一億円の援助を行い、かつ、保険収入も他科並みにすると、
赤字になることはしない方針の徳洲会病院グループや精神科病棟をつぶし始めた国立系や済生会系、日本赤十字系の公立病院、全国の市立病院等が精神科病棟開設に踏み切り、全国400の総合病院精神科入院体制ができることになる。
我が湘南地域でも徳洲会3病院、藤沢市民病院、茅ヶ崎市立病院、平塚市民病院、国家公務員共済組合連合会平塚共済病院、小田原市立病院の公立5病院全てに、待望の精神科ベッドができることになる。
うつ病の自殺率も一挙に減るであろう。
総合病院精神科病床は全国で4000~8000床新設でき、減少しつつある総合病院や大学病院の入院病床数を合わせると、イタリア並みの高レベルにして、必要最小限の精神科病床を持つ国に再生できるのである。
すなわち、経済的にも、精神科病院は廃止できるのである。
今の精神科病院のスタッフは在宅福祉やデイケア等のスタッフにすればよい。
医師を始めとしたスタッフは当然、意識変化、行動変化を求められる。適応できない人は国が職業訓練を行い生活を保障し、本人の求職を援助すればよい。3ヶ月から1年で社会復帰できるであろう。
精神科病院のスタッフこそ社会復帰が必要なのである。自ら社会復帰していく中で、精神障害とされた人達の社会復帰が可能となり、サポートが出来るのである。そういう能力をスタッフは充分持っていると陽和病院に勤務した私は確信している。
薬は大幅に減るので、製薬メーカーは頭をかかえるであろう。

経済構造の変化はやむをえないものである。



ニセイカウシュッペ山の近くの山 約1830メートル 2013年8月14日













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